地域が主体となった移動困難解決への挑戦

地域交通の課題と新たな選択肢
深刻化する移動困難
相模原市では、鉄道駅から1km、バス停から300m圏外といった交通不便地域の解消が長年の課題となっていました。特に高齢化が進む地域において、路線バスへの公費負担やコミュニティ交通の導入は困難な状況にあり、地域住民の日常生活に大きな影響を及ぼしています。
こうした状況を打開するため、地域が主体となり、身近な移動困難を解決する新たな選択肢として「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」の実証運行が始まりました。
グリスロの特徴
- 時速20km未満で公道を走行できる電動車両
- 環境負荷が低く持続可能な移動手段
- 低速で開放的な車両による地域交流の促進
- 高齢者にも安全な移動サービス
本レポートでは、モデル地区である新磯地区、特に先行して運行を開始した勝坂・上磯部・新戸地区における導入から現在までの歩みと、本格運行に向けた展望を詳述します。
導入準備段階:地域一体での体制構築
検討委員会の設立
令和4年11月、新磯地区まちづくり会議での承認を受け、「新磯地区グリーンスローモビリティ導入検討委員会」が設立されました。各まちづくり会議、自治会連合会、民生委員児童委員協議会、観光協会、地域包括支援センター、市役所関連部署、専門家が参加し、多角的な視点から議論を展開しました。
住民ニーズの把握
令和5年5月から6月にかけて、地域の移動ニーズを正確に把握するため大規模なアンケート調査を実施。5,502部配布、867部回収(回収率15.8%)という結果から、地域の具体的な課題が明らかになりました。
ワーキンググループの設置
アンケート結果を踏まえ、4つの地区(下磯部、上磯部、勝坂、新戸)ごとにワーキンググループを設置。自治会、民生委員、まちづくり会議の代表者やボランティア希望者で構成され、運行ルート、利用方法、担い手確保などについて詳細な議論を重ねました。
検討委員会の開催実績
令和5年2月から10月にかけて、計7回の検討委員会が開催され、段階的に具体的な計画を策定していきました。
主な内容・決定事項
2023/02/02
第1回 導入検討委員会
委員会発足。会長(穂苅氏)・副会長(佐田氏)選任。
2023/03/24
第2回 導入検討委員会
アンケート実施方法の決定(全戸配布およびWEB回答)。
2023/05/15
第3回 導入検討委員会
アンケートスケジュールと会場対応の調整。
2023/06/15
第4回 導入検討委員会
アンケート結果報告。4地区別のWG設置を提案。
2023/07/04
第5回 導入検討委員会
地区別WGの正式組織化。勝坂地区の先行実施を検討。
2023/08/25
第6回 導入検討委員会
運行体制・統合ルート案の提示。補助金申請状況の報告。
2023/10/17
第7回 導入検討委員会
勝坂地区実証運行計画の確定。出発式の段取り確認。
2023/10/30
新磯地区グリスロ出発式
勝坂地区にて実証運行開始(~12/21)。
2023/12/09
新戸地区実証運行開始
デマンド(予約)型での試行開始(~2024/01/27)。
2024/01/17
上磯部地区実証運行開始
定時定路線型での試行開始(~02/14)。
2024/03/14
第8回 導入検討委員会
R5年度実績報告。R6年度の全地区デマンド移行方針を決定。
2024/06/03
第9回 導入検討委員会
R6年度運行計画案。新戸地区の先行運行開始を承認。
2024/10/08
第10回 導入検討委員会
R6年度中間振り返り。車両の安全性改善(ミラー等)の要望。
2024/11/13
第11回 導入検討委員会
本格運行に向けた組織体制案(新協議会)の提示。
2025/01/29
第12回 導入検討委員会
検討委員会の解散日(3/30)と新組織発足方針の確認。
2025/11/14
第13回 導入検討委員会
「導入検討委員会」解散。「新磯地区グリスロ協議会」への移行決定。
2025/12/04
若葉台・久保沢との意見交換会
広域連携の強化。有償運送講習の受講推進を確認。
バス停までの距離
全地区で最大の課題として認識されました。

第1期実証運行:勝坂・上磯部・新戸地区での第一歩
運行概要
- 期間: 令和5年12月9日〜
- 運行日時: 毎週月曜日 水曜日 土曜日
- 目的: 高齢者等の買い物場所(ツルハドラッグ、ふれさタカラヤ)までの移動支援
- 利用方法: 前日午前中までの電話予約制
運営体制
地域のボランティアによる2名から3名体制で運営されました:運転手、サポートスタッフ(添乗員)、後方支援スタッフ。安全運行マニュアルを整備し、地域住民の協力のもと、初めての実証運行が実施されました。
使用車両(旧型)
車両タイプ
ゴルフカート型電動車(YAMAHA製 AR-07)
定員
7名(運転手・サポートスタッフを除き5名)
特徴
シートベルトなし、帆(エンクロージャー)で雨風に対応

第1期運行から見えた課題
買い物先でのルート問題
ツルハドラッグとタカラヤが県道を挟んで位置しており、利用者が両店舗を利用する際の移動方法が大きな課題に。高齢者が荷物を持って県道を徒歩で横断することの危険性が指摘され、グリスロで何度も横断すると運行が複雑化し安全性への懸念も生じました。
サポート範囲の線引き
原則は「買い物場所への移動支援」であり、乗降時の介助や荷物運びは自己責任とされていました。しかし現場では高齢者に手を差し伸べないことは非現実的で、人道的な支援と万一の事故の際の責任問題との間で、ボランティアスタッフの葛藤が見られました。
車両の安全性と快適性
旧型車両にはシートベルトがなく車体の強度も低いため、「ゴルフカートに命を預けている」という安全性を懸念する声が上がりました。後部荷台は荷物が落下するリスクがあり、使い勝手にも課題がありました。
これらの課題は、第2期実証運行に向けた車両の選定や運営方法の見直しに繋がる貴重な経験となりました。
第2期実証運行:新車両導入と体制強化
新車両の特徴
令和6年6月より、安全性と快適性を大幅に向上させた新車両が導入されました。マイクロバス型電動車には、全席シートベルト完備、ドア付き、エアコン装備、「バックします」「右に曲がります」などの音声案内機能が搭載されています。
6月5日には運転講習会が実施され、ボランティア運転手が新車両の操作方法や安全運転について学び、運行が再開されました。
運営基盤の強化
補助金の活用
「新戸地区グリーンスローモビリティ運営委員会」として相模原市地域おでかけサポート推進事業費補助金(399,936円)の交付を受け、運営基盤を強化しました。
情報発信の充実
専用携帯電話を契約し、地域住民への案内チラシを全戸配布するなど、広報活動にも力を入れました。これにより利用者の認知度が向上し、予約もスムーズになりました。
本格運行に向けた展望
運行規模の拡大
現在、新磯4地区で1台の車両を共有していますが、バッテリー消耗の問題や各地区の利用ニーズに応えるため、車両の追加配備が検討されています。本村市長への直接の申し入れの結果、市からは「週に2〜4回の運行計画」を条件に2台目の配備を検討するとの回答があり、今後のボランティア体制の拡充と運行頻度の増加が大きなテーマとなっています。
事業の目的とビジョンの共有
「なぜグリスロなのか?」「この活動を通じてどのような地域を目指すのか?」といった事業全体の目的やビジョンを再確認し、関係者間で共有する必要性が指摘されています。
ボランティアへの配慮
運営の継続には、ボランティアの負担軽減と安全確保が不可欠です。「ボランティアへの配慮も同乗される高齢者とイコールぐらい」であってこそ、次の世代に引き継がれるとの意見も出ています。
他の移動手段との連携
グリスロだけで全ての移動ニーズを賄うことは困難です。自家用車での有償運送やコミュニティバスの実現要請など、他の選択肢との連携や棲み分けも視野に入れた総合的な地域交通体系の議論が求められます。
車両選定の妥当性
グリスロ車両の特性(環境配慮、低速)と、コストパフォーマンスや実用性(市販のワゴン車等との比較)を天秤にかけ、地域の実情に最も適した手段は何か、という根本的な議論も必要とされています。
持続可能な「地域の足」の確立に向けて
本格運行に向けた確かな実績
令和7年度上半期の運行において、新磯地区全体で延べ利用者905人の方にご利用いただいています。これは相模原市が示す2台目導入の条件「半年間で864人」を大きく上回る実績です。地域の皆様のご理解とご協力により、着実に利用が広がっています。
この実績を基盤として、2026年4月からは新しい運営組織「新磯地区グリーンスローモビリティ協議会」へ移行し、共同会長制(建川氏・野崎氏)のもと、より充実したサービス提供を目指してまいります。
運行車両


2台目導入で広がる可能性
運行頻度の向上
各地区での運行を週2回以上に増やし、より多くの方にご利用いただけるよう体制を整えます。買い物支援の機会が大幅に増加します。
地域イベント対応
大凧まつり・桜まつり・盆踊り大会などの地域行事での送迎サービスを提供し、より多くの方が安全に参加できる環境を作ります。
防災訓練への活用等
今後は災害時の移動支援を想定した訓練にグリスロを活用し、地域の防災力向上に貢献することを計画しています。